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優良病院のマネジメントの共通項/医師マネジメントレポートvol.06

  • 業種 病院・診療所・歯科
  • 種別 ホワイトペーパー

弊社ではこれまで1,400件以上の病院経営コンサルティングに携わり(2021年9月時点)、うち医師人事制度構築については、110件以上のご支援(2021年4月時点)をして参りました。

こうした中で体験してきた、病院経営のトレンドをまとめてみたいと思います。今回は「優良病院のマネジメントの共通項」について考察してみたいと思います。

優良病院の特徴

そもそも優良病院とは、どのような病院がイメージされるのでしょうか?

国際的な医療機能評価である「JCI認証取得病院」や「DPC特定病院群(旧Ⅱ群)」。複数病院を保有する「大規模病院グループ」。大規模急性期病院が加盟することの多い「NPO法人VHJ機構会員病院」…。

いろいろなイメージがあるかと思いますが、今回は「経営的な優良さ」という視点で考察してみます。

私どもは、「経営力=戦略の妥当性×実行の徹底度」という公式をしばしば使います。この公式は車の運転に例えられます。

戦略の妥当性は「上手いハンドリング(運転操作)」、実行の徹底度は「エンジンの推進力」といったイメージです。両者が組み合わさることで、はじめて事故無く、適切なコース(ルート)を、適切な速度で走ることができます。どちらかが欠けると、ハンドリングが悪くて交通事故を起こしてしまったり、エンジンの推進力が不足して前に進まなかったりします。

私は「DPC特定病院群」や「大規模病院グループ」など、経営的に優良な病院を担当することが多いのですが、こうした病院では「経営力=戦略の妥当性×実行の徹底度」の公式を体現していることが多いと感じています。

「異常を早く察知」して「早く対処」

もう少し具体的に見ていきます。

SWOT分析を取り入れている病院ではイメージしやすいと思いますが、戦略とは、内部環境と外部環境の諸要素(自院の強み・自院の弱み・外部の機会・外部の脅威)を組み合わせて、“自院が採るべき方向性を絞り込む”ことです。まさに「選択と集中」(または「選択と捨象」)です。この「選択と集中」の正確性が「戦略の妥当性」です。

ところで、医療業界は2年に一度の診療報酬改定によって、公定価格(値決め)が大きく見直されています。これまではこのサイクルに合わせて、戦略の妥当性を見直す必要がありました。京セラ株式会社の創業者である故・稲盛和夫氏は、「値決めは経営」とおっしゃっていましたが、まさに値決めに合わせて経営を変えていく必要があったのです。

しかし、昨今は地域医療構想・医師偏在対策・医師働き方改革という三位一体の取り組みなど、異なる要素が加わってきています。人口動態による高齢者人口や就業人口の変化も中長期的には考慮する必要があります。さらに、2020年以降は新型コロナウイルス感染により日々刻々と感染状況が変わり、日次単位の環境変化でマネジメントを見直す必要が出てきたと思います。

このように「戦略の妥当性」については、以前よりこまめに状況把握して見直し、日々、妥当性の検証・見直しをする必要が出てきています。

前述したような優良病院では、新型コロナウイルス感染がまん延する前から、DPCコード単位の平均在院日数を週次単位でチェックし、DPC入院期間Ⅱ期を超している場合は直ちにクリニカルパスを修正し、診療プロセス自体を月次レベルで改善するなどの取り組みをしてきました。

そのため、2020年の新型コロナウイルス感染のまん延に際しても、第1波の頃には混乱していましたが「戦略の妥当性の検証・見直し速度」が速く、その回復が早かったという印象です。

ポイントは、「異常を早く察知」して「早く対処」している点だと思います。

従来からの改善手法であるPDCAサイクルも、昨今は「OODAループ」へと、マネジメントの考え方も変わってきています。

OODAループとは、観察(Observation)・情勢判断(Orientation)・意思決定 (Decision)・行動(Action)の略で、朝鮮戦争時の空中戦で考案され、一番激戦地に敵前上陸する米国海兵隊で確立しました。現在はビジネススクール(経営大学院)などで研究されて、ビジネスでも活用されています。

素早く対処している優良病院を見てみると、こうしたOODAループのステップを踏まえた取り組みをしていると感じることがあります。

OODAループの第1ステップは「観察(Observation)」ですが、まさに「異常を早く察知」するのが優良病院の特徴です。前述したような「DPCコード単位の平均在院日数を週次単位でチェック」などが徹底しています。「異常を早く察知」しているからこそ、その異常に「早く対処」しています。

氣づきのレベルが高く「異常を早く察知」

OODAループの第一ステップは観察(Observation)ですが、「異常を早く察知」するポイントは意識を向けていることだと思います。

弊社では「5つの基準行動(基準創造行動)」という内容を、新入職員研修や役職者研修、幹部候補育成研修などでも一貫してお伝えしています。これは監査法人(公認会計士)を母体とした教育機関が開発・整理した考え方で、弊社も入社3年目など節目の際に全社員が受講し、共通言語のひとつとなっています。
5つの基準行動は「①氣づきと挨拶、②早起きと認識即行動、③約束と計画、④報告・連絡・相談、⑤整理・整頓・清掃・清潔」です。

なぜ監査法人を母体とした教育機関が、こうした社会人の基礎的なことを開発・整理したかと言えば、この5つの基準行動の乱れが「倒産企業の共通項」だったからです。

そして、一つ目が“氣づき”となっています。

“氣づき”とは「意識して氣づこうとすること」です。“氣づき”における旧字体の「氣」は中心が「米」になっています。これは、四方八方に意識を向けることを表しています。

五感を総動員して、四方八方に自ら意識を向けることで初めて“氣づき”が得られます。気象レーダーや航空レーダーが、電波を四方八方に向けることで、その反射波で雨雲や飛行機を察知するイメージです。まさにOODAループの第一ステップである観察(Observation)と同意です。

普段から意識して氣づこうと五感を駆使して観察しているので、異常を早期に察知できるのです。前述したような優良病院は、氣づきのレベルが高く「異常を早く察知」しているからこそ、その異常に「早く対処」できているのだと思います。

良いルーティンの徹底で異常に氣づく

では、こうした優良病院は、なぜ氣づきのレベルが高くなったのでしょうか?

ここに「実行の徹底度」が大きく影響していると感じます。つまり、良いルーティンを持っているのです。
先日、長年担当させていただいている「DPC特定病院群」のお客様で、講演を行う機会がありました。土曜日の午前9時開始の研修でしたが、我々が念のために20分前に会場近くで待機していると、ほぼ同時刻に院長・副院長が到着していました。

院内ではなく、院外の会場を借りての研修でしたが、土曜日の朝に院長・副院長が開始20分近く前に現着していることが印象的でした。

トップ層が率先垂範することで、開始時間前に全員揃い、定刻の数分前に会を開会することができました。“実行の徹底度が高い組織”です。

このように「トップ層が早く現場に行く」などの良いルーティンを持っていることで、「誰が来ていないか?」「誰が遅れているか?」などを視覚的に把握しているのだと思います。

別の「DPC特定病院群」のお客様で医師人事制度を設計した際には、その制度の説明で医局会に参加した時、医局会には「遅刻者席」が設けられていました。

医局会の開会時間を過ぎて会場に入った医師は「遅刻者席」に座ることで、遅れてきた医師が経営層から一目で識別できるようになっていました。

他にも、弊社のお客様の「JCI認証取得病院」かつ「DPC特定病院群」の病院では、研修では院長・副院長から最初に会場に来て最前列に着席することが習慣化しています。

このように優良病院では、実行の徹底度に関する事例は枚挙にいとまがありません。

元メジャーリーガーのイチロー選手が現役時代、毎朝カレーを食べることで自身の体調変化を察知していたと言われています。ルーティンを徹底することで、異常を五感で察知できるようになるのだと思います。

このように世の一流の方や優良病院では、良いルーティンにより“実行の徹底度”を高めることで「異常を早く察知」して「早く対処」し、“戦略の妥当性”をも高めています

「DPCコード単位の平均在院日数を週次単位でチェック」など戦略の妥当性を高める行動(良いルーティン)も、継続しなければ意味がありません。こうした良いルーティンを継続する“実行の徹底度”が、優良病院の強さの源泉だと感じます。

優良病院のマネジメントシステム

それでは、こうした優良病院が“実行の徹底度”と“戦略の妥当性”を高めるためにどのような取り組みを行っているかを考えていきたいと思います。

以前、弊社のお役立ちレポートで診療科別に四半期単位の多職種ディスカッションを行っている病院の事例をご紹介しました。こうした優良病院では、多職種ディスカッションでのBSC策定ワークショップ研修を行っていることが多いです。

【多職種協働を実現する医師マネジメント】
https://nkgr.co.jp/useful/hospital-strategy-organization-91195/

このレポートでもご紹介しましたが、多職種が持ち寄ったデータをもとに、ディスカッションを行うことで、以下のような氣づきが生まれます。

「え、この薬剤こんなに高かったの?」
「○○(薬剤名)って、15mgと7.5mgでこんなに値段違うの? それなら15mgの方を分割できない?」

異なる職種の視点でディスカッションを行うことで氣づきを促すという、年次ルーティンを採り入れています。

さらに、この氣づきに関して実行の徹底度を高めるために、BSC策定ワークショップ研修で設定したKPIを、医師人事制度のMBO(目標達成度評価)に組み込んでいることが多いです。

BSC(事業計画)と医師人事制度(組織システム)の連携で、実行の徹底度を高めているのです。なお、BSCと医師人事制度の相性の良さは、以前の弊社のお役立ちレポートで詳述しています。

【BSCを活かした医師マネジメント】
https://nkgr.co.jp/useful/hospital-strategy-organization-91605/

さきほどご紹介した、開会20分前に院長・副院長が会場に到着していた病院の研修は、まさに多職種ディスカッションでのBSC策定ワークショップ研修でした。このようにBSC策定ワークショップ研修という良いルーティンを通じて、異常を早期に察知するとともに、妥当な戦略を練り上げています。

多職種ディスカッションでのBSC策定ワークショップ研修と医師人事制度の組み合わせは、上記のような様々な効果をもたらし、“実行の徹底度”と“戦略の妥当性”の双方を高めると感じることが多いです。

今回は“経営的な優良さ”という視点で考察してみましたが、“実行の徹底度”と“戦略の妥当性”の双方が高まった病院は、経営的な面だけでなく「地域に役立つ病院」にもなると思います。

そもそも地域住民や連携医療機関、近隣救急隊のニーズなどの外部環境を踏まえて、自院が担うべき領域を担っていることが“戦略の妥当性”です。これを徹底していれば、“地域住民や連携医療機関、近隣救急隊のニーズを徹底して担う”という「地域に役立つ病院」になるはずです。

最近は、地域住民や地元企業からの寄付をクラウドファンディングで募って、病院救急車など病院設備の購入を行う病院が出てきています。まさに、地域住民や地元企業が「地元で永続発展してほしい」「もっと地域に貢献してほしい」と応援したくなるレベルで「地域に役立つ病院」です。

地域住民や地元企業が応援したくなる「地域に役立つ病院」というのは、全ての病院が目指すべき姿だと思います。“実行の徹底度”と“戦略の妥当性”の双方が高い病院は、経営的に優良なだけでなく、結果として地域への貢献度も高くなっている。私はそのように思います。

ぜひ皆さまの病院でも、工夫して取り組まれてみてはいかがでしょうか。

ポイントは“実行の徹底度”なので「毎年継続できるか?」が、重要です。まずは5年間やり続けるなど、コミットメントをしてみてはいかがでしょうか?

このレポートの解説者

太田昇蔵(おおた しょうぞう)
株式会社 日本経営 コンサルタント

大規模民間急性期病院の医事課を経て、2007 年入社。電子カルテなど医療情報システム導入支援を経て、2012 年病院経営コンサルティング部門に異動。
現在、組織人事コンサルティング部の副部長として、医師マネジメントシステムの高次化に取り組む医師人事分科会を統括。2005年西南学院大学大学院経営学研究科博士前期課程修了、 2017 年グロービス経営大学院 MBA コース修了。

本稿は掲載時点の情報に基づき、一般的なコメントを述べたものです。実際の経営の判断は個別具体的に検討する必要がありますので、専門家にご相談の上ご判断ください。本稿をもとに意思決定され、直接又は間接に損害を蒙られたとしても、一切の責任は負いかねます。

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